大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)849号 判決

原告

中谷静代

右訴訟代理人

橋本二三夫

芝原明夫

細見茂

豊川義明

斎藤浩

内山正元

山口健一

被告

枚方市

右代表者市長

北牧一雄

右訴訟代理人

河合伸一

仲田哲

被告

枚方市街地開発株式会社

右代表者

西川実

右訴訟代理人

谷口進

難波雄太郎

被告

株式会社枚方近鉄百貨店

右代表者

浅岡幸夫

被告

向井理喜

被告

村上義子

被告

二神昌義

被告

飯田利明

被告(亡紀本利武訴訟承継人)

紀本美智子

被告

松井孝嘉

引受参加人

白木文子

右被告七名及び引受参加人訴訟代理人

豊倉元子

樋口庄司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

(一)  被告枚方市、同株式会社枚方近鉄百貨店、同向井理喜、同村上義子、同二神昌義、同飯田利明、同紀本美智子、同松井孝嘉、引受参加人白木文子は、原告が別紙物件目録(一)記載の建物の別紙図面表示の赤斜線部分の階段及び赤色部分のエレベーターを使用して、別紙物件目録(二)記載の各建物に出入することに対し、別紙図面表示の①のシャッターを閉鎖し、③の扉を施錠するなどして妨害してはならない。

(二)  被告らは、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物の別紙図面表示の①の出入口南端部分に、幅0.75メートル以上、高さ1.80メートル以上、下端が床面から0.15メートル以下の扉を設置せよ。

(三)  被告株式会社枚方近鉄百貨店は、別紙物件目録(一)記載の建物の八階屋上部分において、物品販売、遊戯場設置、各種行事の開催、その他一切の営業行為をしてはならない。

(四)  被告株式会社枚方近鉄百貨店は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の各建物の外壁において四五フオンを超える騒音を与えてはならない。

(五)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(六)  第(一)、第(二)項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二  当事者の主張〈以下、省略〉

理由

第一当事者〈省略〉

第二原告の本件住宅の取得経過

〈省略〉

第三被告開発会社を除く被告らに対する通行妨害の排除と被告らに対する専用扉の設置請求〈省略〉

第四被告近鉄に対する屋上営業の差止請求

一被告近鉄の屋上営業

以下の事実は、当事者間に争いがない。

(1)  被告近鉄は、本件ビルの八階のうち、各種機械設備設置部分、塔屋部分及び本件住宅部分を除いた本件屋上部分約五九〇平方メートルを「太陽の広場」と称して遊園地として以下のとおり使用している。

被告近鉄は、昭和五〇年三月二五日頃から、植木、盆栽、庭園用置物等を運び込み、同年四月一日の開店から植木、盆栽等の展示、販売を開始し、一週間にわたり開店記念行事を行なつた。その後、被告近鉄は、昭和五二年三月一八日頃から、本件屋上南側部分に園芸物売場を設け、南エレベーターの出入口付近に商品を積み上げ、屋外避難階段への通路部分に温室、植木棚を設け、又、屋上消火栓付近にも商品を並べ始めるとともに、本件屋上フエンスに各文字が一メートル四方もある屋上遊園地と書いた看板を掲げ、本件住宅の東側部分にコンクリートで固定した鉄骨の柱を一二本建て、ビニール製の屋根、側壁をはつた建築物を設置し、そこに数十台の各種のゲーム機械を置いてゲームコーナーを設け、更に、昭和五三年頃からは、本件住宅の北側部分に児童用の電気自動車、汽車等の乗り物コーナーや空気式遊戯具(ネツシー)等の大型遊戯器具を設置している。

(2)  このほか近鉄は、本件屋上を使用して外人タレントの撮影会やラジオ番組の公開録音等宣伝を兼ねた各種特別催し物を開催している。

二原告の被害

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、以下の認定に反する証拠はない。

被告近鉄が、開店日から約一週間にわたつて、本件屋上で開店記念行事、写真撮影会、鵜飼の実演等の特別催し物を行なつた際や、昭和五二年三月一八日に本件屋上で遊園地営業を開始した当時には、多数の客が本件屋上に来場したが、その後、右のような特別の催し物がない場合に、屋上遊園地を利用したり、植木を購入するために本件屋上に来場する客の人数は、遊園地開設当時に比べて少なくなつてきている。本件ビル内から本件屋上への出入口は、本件通路と北側階段の二ケ所あるが、本件通路にはエレベーターが設置されていることもあつて本件通路を利用する客の方が多く、本件通路を出入口として使用する場合には、本件住宅の南側及び東側の壁のすぐ横を通行することになる。又、本件屋上に来場した客の中には本件住宅をのぞき見したり、本件住宅東側の壁の凸部をベンチ替わりにして坐る者がみうけられる。しかし、被告近鉄の営業時間外及び週一回の定休日等の休業日には、本件屋上には遊戯器具の修理、点検や警備員の見回りのほか人が屋上に上つてくることもなく静かである。本件住宅には、東側に四面、北側に二面の窓がそれぞれ設けられており、本件住宅の西側を除く三方の周囲には全く障壁がないこともあつて、原告は、被告近鉄の営業時間中は、本件住宅の東側及び北側の窓を閉めきつているが、営業時間外及び週一回の定休日等の休業日には、本件住宅の窓を開けている。

三屋上の共有持分権の侵害

(一) 本件屋上は、本件ビルの基礎や外壁とともに本件ビル全体をささえ、骨格となるものであるから、性質上、構造上の共用部分に該当するものと認められるから、原告は本件住宅の区分所有者として本件屋上について共有持分権を有するものと認められる。

(二) そこで、原告の有する屋上の共有持分権の侵害の有無について検討する。

(1)  〈証拠〉によれば、被告近鉄は、昭和四九年五月一五日、屋上営業について、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律に基づく売場申請を、昭和五〇年四月二八日本件ビル屋上に本件住宅が建築されることが確定したので、右売場申請を本件屋上部分に変更する旨の変更報告を行なつたこと、被告近鉄は、昭和五二年三月八日に開かれた本件ビルの区分所有者集会において、本件屋上を被告近鉄の営業行為の用に使用することについて、原告を除く区分所有者全員の同意を得て本件屋上で前記営業行為を行なつていることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右の決議は、被告近鉄に共用部分の一部である本件屋上部分を、排他的、独占的にその営業行為の用に使用できる専用使用権を与えたものであることが認められる。

(2)  原告は、本件屋上について、原告の利益を無視した被告近鉄に対する専用使用権の設定は許されないと主張する。

しかし、共用部分は区分所有者の共用に供されるべきものではあるが、その一部を特定の区分所有者の専用使用に供することは、共用部分の性質ないし用法又は規約の定めに反しない限り、使用方法、態様などの決定について法律上格別の制限がないことから、先に認定した専用使用権を設定する旨の決議は許されるものということができる。

(3)  原告は、右専用使用権の設定が共用部分の変更にあたり、原告の同意がないから許されないと主張する。

本来、共用部分である屋上をどのように利用するかを決めることは、共用部分の管理に関する事項であるが、先に認定した被告近鉄に対する専用使用権の設定は、区分所有者の一人に排他的、独占的、永続的に使用権を付与するものと認められるから、管理行為として認められる共用部分を構成する物的性状を確定的に変更せず、その用途を基本的に変更しない行為の程度を越えるものとして、共用部分の変更にあたるものというべきである。ところで、共用部分の変更は共有者全員の合意を必要とするが(区分所有法一二条一項)、本件屋上営業についての決議には、原告の同意がないことは前記認定のとおりである。

しかし、〈証拠〉によれば、本件ビルの管理について、都市再開発法第一三三条に基づきひらかたサンプラザ管理規約が制定され、昭和五一年三月二六日から施行されていること、同規約第一四条には、共用部分の変更は当該共用部分の共有者をもつて構成する集会の決議によつて決定するが、共用部分の重要な変更については、当該集会の構成員及び議決権の各四分の三以上で決定する旨の規約が定められていることが認められる。そして、区分所有法第一二条に規定する事項については規約で別段の定めをすることを妨げないとされており、右規約は、同法に優先して適用されるものである。(都市再開発法第一三三条、区分所有法第八条、第二三条)しからば、屋上営業を決議した原告を除く本件ビルの区分所有者の議決権は、合計98.6パーセントを越えるものであることは前記認定のとおりであり、原告を除く区分所有者の数は集会構成員の四分の三を越えることは明らかであるので、前記決議は、ひらかたサンプラザ管理規約第一四条の共用部分の変更に関する議決要件を充足しているものということができる。

(4) 原告は、前記決議に基づく被告近鉄の屋上営業により、原告の専有部分である本件住宅の使用に特別の影響を及ぼす場合にあたるから、原告の承諾を得なければならないと主張する。

共用部分の変更又は管理が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならないところ(区分所有法第一三条、第一二条二項)、前掲甲第九号証の一により認められるひらかたサンプラザ管理規約第一四条にもその旨の規約が定められている。そして、被告近鉄の屋上営業の承諾決議については原告の承諾がないことは先に認定したとおりである。

そこで、被告近鉄の屋上営業行為が原告に特別の影響を及ぼす場合に該当するかどうかについて検討する。先に認定した被告近鉄の屋上営業と原告の被害事実によれば、被告近鉄が本件屋上において各種催し物を開催し、遊園地営業を行なつた際に、屋上に来場した客が本件住宅をのぞき見したり、本件住宅の東側外壁凸部をベンチ替わりにして坐わつたりすること、このような際には、原告としては本件住宅の窓も開けられない状態となること、しかし、本件屋上営業は、被告近鉄の営業時間である午前一〇時から午後六時(日曜、祝日は午後六時三〇分)迄の間に限られ、しかも、特別の催し物を行なつていないときには、開催期間中の人出に比べてはるかに少ないこと、被告近鉄の営業時間外及び週一回の定休日の休業日には、本件屋上には、遊戯器具の修理、点検や警備員の見回り以外に人が上がってくることもなく静かであり、その間に限つては、原告としては本件住宅の窓を開けていることが認められる。

右事実によれば、被告近鉄の屋上営業が行なわれることによつて原告の本件住宅の使用に特別の影響を及ぼしているものと認められるが、右の影響は、原告の本件住宅の北及び東側壁面からある程度の距離を置いて障壁若しくはこれに代わるべき物を設置するとかの方法を採るなど、原告と被告近鉄の意思、希望を斟酌して社会通念上妥当とされる工作物を設置することによつて容易に防止しうるものである。そうだとすれば、原告の有する屋上の共有持分権が前記決議に基づく被告近鉄の営業行為によつて侵害されるからといつて、被告近鉄に対し、右のような措置を講じることを請求しうるにとどまり、この限度を超えて営業行為を全面的に差し止める権利を有するものとは認め難いというほかはない。そして、右の障壁等の設置を求める旨の請求は、屋上営業行為の差止請求とは別個の請求であると解すべきであるから、その請求のない以上これを認めることはできない。又、障壁等を設けることによつて障壁と本件住宅とに囲まれる屋上部分について、結果的には被告近鉄の使用を否定することになるが、右屋上部分の一部使用が否定されることは障壁等の設置と一体となつてはじめてその効果をもつものであるから、同様に、屋上営業行為の差止請求の一部とはいえず、右限度においても屋上営業行為の差止を認めることもできない。

四人格権の侵害

原告は、本件住宅において平穏な生活を営む人格権の侵害を理由に、被告近鉄の屋上営業の差し止めを求めるが、先に判断したと同様、原告としては、その人格権が侵害されたからといつて、被告近鉄に対し、本件住宅からある程度の距離を置いてなんらかの障壁等の設置を講じることを請求しうるにとどまり、これを越えて屋上営業行為の全面的差し止めを請求する権利を有するとは認められない。

第五被告近鉄に対する騒音の差止請求

一被告近鉄の各種設備装置の運転と原告の被害

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、以下の認定に反する証拠はない。

本件屋上には、電気室の換気装置、本件ビル全体の空調装置、食堂厨房の給排気装置が設置されており、電気室の換気装置は終日にわたり、その他の装置は午前九時頃から午後八時頃までの間それぞれ運転されている。被告市が昭和五〇年四月一五日頃に本件ビルの八階屋上において騒音測定を行なつた結果では、全装置運転時には、本件住宅東側外壁付近(以下「A地点」という。)で六五ないし六九フオン、本件住宅北側外壁付近(以下「B地点」という。)で七二フオン、本件住宅の室内において窓が開放状態のときは六五ないし六九フオン、窓を閉めた状態のときは五〇フオン、電気室の換気装置を停止したときは、本件住宅の屋外で六〇ないし六九フオン、全装置を停止したときは、本件住宅の屋外において五三フオンの各騒音レベルであつた。その後、被告市は、昭和五一年三月頃、本件屋上の塔屋に防音壁を設置したが、右設置後に騒音測定を行なつた結果では、全装置運転時には、A地点で五七ないし五九フオン、B地点で五九ないし六一フオン、電気室の換気装置のみが運転されている夜間のときは、A地点で四八フオンないし五〇フオン、B地点で四六ないし四九フオンの各騒音レベルであつた。

なお、被告市が昭和五〇年四月一五日頃に行なつた騒音測定結果では、本件屋上の全装置を停止した状態における昼間の騒音(暗騒音)がすでに五三フオンのレベルに達していた。

本件ビルの所在地は、枚方市公害防止条例施行規則によれば、商業地域(第三種地域)に指定されているが、同規則別表第三によれば、午後九時から午前六時まで、第一種住居専用地域で四〇フオン以下、第二種住居専用地域で四五フオン以下とすべき規制基準が定められている。

二原告の人格権の侵害

以上の認定事実によれば、原告は、本件住宅において終日四五フオンを越える騒音を受けていることが認められる。しかし、原告が主張する四五フオンの制限値は、枚方市公害防止条例施行規則による第二種住居専用地域における午後九時から午前六時までの夜間における規制数値と同じであるが、本件ビルは、商業地域(第三種地域)に属し、右地域における規制数値は第二種住所専用地域のそれを上回る数値が定められていることは容易に推認できることから、直ちに原告主張の制限値が合理的なものと認めることはできないというべきである。又、本件住宅はその場所柄からいつても、もともと相当の騒音にさらされている位置にあることが窺われる。更に、本件屋上の塔屋には、被告市によつて防音壁が設置され、それにより、騒音は夜間において、A地点で四八ないし五〇フオン、B地点で四六ないし四九フオンのレベルになつており、これは第二種住居専用地域の夜間における規制数値に近い水準まで騒音が低下していることが認められる。しかも、本件屋上に設置されている前記各装置は、専有部分に属しない建物の附属物として共用部分である。以上を総合勘案すると、本件屋上における現在の騒音は、共用施設の運転によつて発生するものであり、商業地域(第三種地域)に存する本件住宅に居住する原告において、未だ受忍限度を越えるものとは認められず、原告に対する権利侵害とはならないものである。その他、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

従つて、その余の点を判断するまでもなく、原告の人格権侵害又は不法行為に基づく四五フオンを越える騒音の発生の差止請求は理由がない。

第六結論〈省略〉

(福永政彦 小野剛 青野洋士)

物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例